History of Arts & Crafts

アーツ&クラフツの歴史


19世紀、産業革命によって人口の都市への集中化が進み、大量生産によってそれまでには考えられなかったほどの商品が供給されると共に、多くの粗悪品が市場に出まわった。そんな中、古き良き時代の熟練職人による質高い工芸品に回帰しようという運動がおこった。アーツ&クラフツ運動である。こうした工芸品への回帰運動は、ヨーロッパ各地で起こり、フランスのアールヌーヴォー、ドイツのユーゲントシュティルなどそれぞれ影響を及ぼしながら流行をみせたが、一番最初に起こったのは、産業革命をいち早く達成した英国である。1860年頃ウィリアム・モリスやジョン・ラスキンによって提唱されたアーツ&クラフツの思想は、多くの芸術家や工芸家の共感を得て、1888年のアーツ&クラフツ展示協会の設立を境に大流行する。そしてその思想は大西洋を超えアメリカ大陸にもにもわたった。
 ヨーロッパを旅して、アーツ&クラフツ運動に接したグスタフ・スティックリーがモリスの思想を北米に広めた。家具職人だった彼はモリスの理想に基づいて家具のデザインだけでなくそれが作られる環境にも関心を寄せ、様々な職人たちが共に仕事をし、有機農業で畑を耕し、共に学び、共に暮らす、そんな職人たちのユートピア、クラフツマンファームを築こうとした。アーツ&クラフツは北米全域に広がり、シカゴのフランク・ロイド・ライト、カリフォルニアのグリーン兄弟など多くの建築家にも多大な影響を与えた。英国ではその流行が終焉を迎える1910年ころには、アメリカではアーツ&クラフツは絶頂期を迎える。良質な素材を大量に擁し、シンプルなデザインに頑丈な品質は、新大陸の人々に好んで受け入れられた。その後、第一次大戦が終わる頃にこのスタイルは流行を失ったが、アーツ&クラフツ運動はヴィクトリア時代まで支配的であった歴史的な装飾様式を破壊し、一掃することになった。今日では、美術館やコレクター達がアーツ&クラフツの初期の品を欲しがり、オークションにおいてプレミアムが付くようになっている。クラフツマンファームなども修復され、アーツ&クラフツのモニュメントとして保存され公開されている。これらアメリカでのアーツ&クラフツに対する再評価の影響を受け、本家のイギリスでも見直され、ロンドンのヴィクトリア&アルバート・ミュージアムでもブリティッシュ・ギャラリーのオープンと共にアーツ&クラフツのコーナーが新設された。



ウィリアム・モリス


Victoria&Albert Museumの
Arts&Craftsコーナー


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